KADOKAWAをめぐる3人の男……角川春樹、見城徹、角川歴彦(編集済)
KADOKAWAとドワンゴの統合という、出版業界としては驚きのニュース(僕はやっぱりな、という感想だというのは、前の記事で書いた)で、面白い話を思い出したので、これもせっかくだから書き残しておきたい。
角川家の長兄である春樹氏が角川映画と小説をセットで売るという当時なかった画期的な手法で、角川書店を一気にスターダムにのしあげていったのは、僕が小学生の頃。
当時の角川映画は、とにかく勢いがあった。映画化されると知って原作を読む。
かつての僕がそうだったように、映画化された本や文庫は売れに売れた。
森村誠一の『人間の証明』(松田優作主演)、『野生の証明』(高倉健と薬師丸ひろ子主演、薬師丸のデビュー作)、半村良の『戦国自衛隊』、横溝正史の『犬神家の一族』『悪魔が来りて笛を吹く』『八つ墓村』など一連の金田一耕助シリーズ、筒井康隆の『時をかける少女』(原田知世デビュー作)など、あげれば本当にキリがないくらい、昭和という時代のメルクマーク的なメディアミクス時代の幕開けだったように思う。
このころの春樹氏は、女優発掘にも才能を発揮し、数々の新しいスターを生み出している。自らも監督業に乗り出すなど(これで角川本体にもいろんな悪影響があった、と当時を知る編集者の友人に聞いたことがある)、メディアへの露出という意味では、ソフトバンクの孫さんのように、とにかく目立ちまくりの不思議な経営者だった。
テレビCMもすごかったし、角川といえば、知らない者がいないくらい、有名な出版社というか映画会社というか、小学生時代から、そんな印象を抱かされていた会社だった。
当時の社長である春樹氏は、実は若き頃より俳人でもあり(決して廃人ではありませんよ、念のため!)、俳句の雑誌なども出し、見城徹(現幻冬舎社長)という天才的な編集者とともに、鳴かず飛ばずだった『月刊カドカワ』を10万部以上のトレンド雑誌に育てるなど、出版部門自体も、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの角川全盛期を作り出した(いまの幻冬舎も、僕にはかつての角川全盛期にだぶって見える。角川スタイルをつくった当事者が社長の会社なので、やはりDNAなのかな)。
ちなみに月刊カドカワというのは、当初は地味な文芸誌(いまも存続する『新潮』『群像』みたいな感じ)。
それを旬のアーティストや役者、作家などの大特集を組み、インタビュー記事も掲載するという手法を取り入れ、ファンが多い著名人を起用したアド的な大衆向け雑誌に大転換させたのだ。
ふっと思い出したけど、編集者としての憧れの雑誌だったなあ、そういえば。
何度も雑誌企画を出してはつぶされたけれど、僕の頭にいつもある雑誌の一つだった。
とにかく、当時としちゃ、まじで画期的な雑誌だった。
「明星」みたいなアイドル路線かなぐり捨てて、コアで固定ファンをもつ読者にターゲットしぼる戦略。
いまじゃ当たり前だけど、これが当たった!
ところが好事魔多し。
春樹氏は麻薬取締法違反で逮捕され有罪となるわけだけれど、コンビを組んできたといってもいい春樹社長に、役員でもあった見城氏が社長の退任を迫った、というのは有名な話だ。
春樹氏を退任させた以上、自分も角川にはいられないとして、部下数人とともに飛び出して作った出版社が、現在の幻冬舎である(見城さんについては、うまくまとめられたブログがあるので参考までに→http://jitandokusho.livedoor.biz/archives/92502.html)。
なお春樹氏は、映画会社として立ち上げた角川春樹事務所を母体に、現在では出版社としての角川春樹事務所社長を務めている。
(見城さんの場合、ご自身でもいろいろ書かれているので詳しく知りたい方は、見城氏の著書をお読みください。)
とここまで書いてきて、角川歴彦氏の名前が一度も出てこないところが、ミソである。
春樹氏と歴彦氏は兄弟だから(ちなみに作家の辺見じゅんは姉にあたる)、火宅の家を地でいく家庭で育ったこの兄弟の間に、そもそも信頼関係があったのかどうか、そこは僕も知らない(話は聞いているが、あくまでうわさ話なので、ここでは触れない)。
というのは、春樹氏が社長時代の1992年、路線対立によって、副社長の歴彦氏は解任されてしまっているからだ。
角川歴彦氏は名経営者か
92年というのは歴彦氏が副社長に昇格した年でもあり、要するに以前から良好な関係であったとは言えないというのが通説だ。
春樹氏は文芸畑、歴彦氏はエンタメ系情報畑。
まったく方向性と指向性、人脈の異なる二人。
いずれにせよ、春樹氏の失脚で角川のトップになるというストーリーは、映画よりも映画的である。
以降、ソフトバンクの孫さんのように、ネット時代に入ると自らが旗ふり役となって、歴彦氏の露出が多くなっていく。
中小出版社を次々と買収し、先を見通した経営という意味では、旧態依然とした版元が多い中で、奇跡的も言える、ネットとの融合路線を強烈に押し進め、新しい経営という意味での発言や講演も、群を抜いて多い。
時代は変わった。
変わりつつあるのではない。
スマホの登場で、その変化が加速度を増しているのだ。
ドッグイヤーどころじゃないね。
角川に流れているDNA。
個性的な人物を生み出し、業界の流れを変えるようなソリューションを提示してくる角川から、今後も目が離せない。
今回のKADOKAWAとドワンゴの合併で、業界の再編は加速する。もはやこの動きは止まらないだろう。
生存競争というのは生物の本能だ。企業もまた。
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