死刑囚・袴田巌さんの48年
袴田巌さん78歳。
30歳で拘留され、拘置期間48年。
死刑確定判決から33年。
死刑囚の再審開始と釈放が同時に行われたのは初めてという。
(NHK news webより)
48年を獄で過ごし、一貫して無罪を主張するも認められず、精神を病んでしまった袴田さん。
再審決定を伝えにきた顧問弁護団の弁護士に言葉にさえ、「そんなことがあるわけない、帰ってくれ」という趣旨の発言があった、と。
奇しくも僕は48歳。僕の人生と同じだけ、袴田さんは無実の罪で無為な時を過ごした。
48年あったら何ができるのか。
『元刑務官が明かす刑務所のすべて』『元刑務官が明かす死刑のすべて』などの著者でもある、元刑務官の作家・坂本敏夫さんは、一貫して袴田さんはえん罪だと訴え続けてきた(ほかにも無実だと確信する死刑囚が何人もいるという)。
坂本敏夫さんとの付き合いは、著者と編集者として、もうかれこれ15年になるが、彼の主張は一貫して「死刑制度は残せざるを得ないとしても、執行はすべきではない」という立場だ。
なぜか。
彼は、実際に刑務官として多くの死刑囚に接し、間違いなくえん罪であるとしか思えない何人もの死刑囚と直に接してきた経験から、死刑という制度そのものにずっと懐疑的だったのだ。
自身も死刑執行の現場に立ち、執行される死刑囚のみならず、現場に立ち会う刑務官の苦悩(執行に立ち会う刑務官の中には精神的に病む者も多いという)も知る坂本敏夫さんは、人が人を裁くことの限界を嫌という程知っている一人だ。
刑務官を辞め、作家として語り始めた坂本敏夫さんも最初は口が重かった。
それでも語らねばならないことを語ろうと、知られざるムショの中を、克明に知る元刑務官として、元公務員のタブーを破って発表し始めた。
死刑判決を下した裁判官は、ずっと悔やんでいたという報道があった。
心証としては無罪と思うけれど、先輩裁判官などからの圧力に屈し、ずっと後悔してきたという。
後悔ってさ、それで済むわけないでしょ。
これですべての裁判など無意味だなどというつもりは毛頭ない。
それでも知り合いの弁護士がかつてこんなことを言っていた。
「裁判になったら勝つか負けるかで、判決と事実は必ずしも一致するもんじゃない」と。
ふーっ。
警察と検察の証拠のねつ造によって、しかも裁いた裁判官も無罪であると思いながら、袴田さんは死刑の判決を受けた。
袴田さんの無罪確定は、近い将来、間違いなくなされることになるだろう。
48年である。
袴田さんが苦悩し、精神的に病んでいる間も、彼を死刑判決に追いやった司法関係者はのうのうとシャバで生きている。
人の一生ってなんなんだろう。
先の坂本敏夫さんによれば、実際に死刑に値する犯罪を犯した死刑囚であったとしても、悔い改めて被害者と遺族に対し、悔悟の念を示しながら執行される者もいれば、泣き叫び、狂ったようになって刑務官に押さえ込まれながら無理矢理執行せざるを得ない者もいるという。
本当に罪を犯して死刑判決を受けた者に、罪の重さを認識させ、悔悟の念を持つまでに更正させ、人間らしさを取り戻させる。それが刑務官としての仕事だと思って、死刑囚と向き合ってきたという坂本敏夫さんが語る言葉はあまりにも重い。
「更正した人間を、なぜ殺さなければならないのか」
(あまり語られないことだし、脱線する話でもあるけれど、覚えておかなければならないのは、死刑囚を生かすために多くの税金が使われているということだ。
死刑囚に限らず、刑務所に収監された犯罪者にも我々の多くの税金が使われている。)
罪を犯し、いつ執行されるかと怯えて過ごす死刑囚。
無実の罪で死刑判決を受け、簡単に言えば司法に嵌められた死刑囚。
いずれにせよ、よほどのことがない限り死刑囚は確実に執行される。
しかも執行は事前には知らされないという。
殺された被害者遺族、裁かれなかった真犯人の存在。
ため息しか出てこない。
弟を無実と信じて支援し続けた兄は5年前に亡くなり、81歳の姉は毎月1回、新幹線で東京拘置所に通い続けた。
けれどこの3年半、精神に異常を来していた袴田さんとは会えていなかったという。
不条理は、決してなくならない。
けれど袴田さんの再審決定と釈放で、不条理に満ちた世界に本当に微かだけれど光が射したのではないか。
いまの僕にはまだ語れないけれど、東日本大震災での、人の生死に関わる不条理についても、いつか書かなければならないと、今回の報道で思った。
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